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コスワースBDRエンジンの整備

コスワースBDR コスワースBDR
有名なコスワースBDRエンジンですねー。こんなのも修理してます。
入庫した状態がこれ。マニアなオーナーによってヘッドがすでに降りています。
一度は整備してみたいエンジンでしたので、ワクワクです。

コスワースBDR コスワースBDR
とりあえず観察してみます。
シリンダーブロックはフォードのOHVエンジンです。
それにコスワース設計のツインカムヘッドを付けてしまったという過激なエンジンが、コスワースBDRです。
元のフォードKENTエンジンは、最も良く回るOHVエンジンと言われるだけあり、優秀な設計です。
鉄のカタマリですが意外とコンパクトで、素晴らしい強度と耐久性を持っています。
そんなエンジンですからコスワースによって倍近いパワーにされても大丈夫なんですね。

BDR BDR
気筒あたり4バルブツインカム、カムはコクドベルト駆動です。
OHVエンジンはシンプルですので、 カムをベルトドライブにするのは意外と簡単だったのだと思います。
もしカムギアトレイン又はチェーン駆動の場合、 密封されたオイルケースが必要で、改造するのは現実的ではありません。
むき出しですがベルト駆動の場合、 オイルを気にする必要も無くヘッドだけ作ってしまえばいいので、当時としてはベストな方法だったのでしょう。

BDR BDR
BDR BDR
ハイパワーエンジンらしくポートはストレートな形状です。
ポートはもう少し大きくてもいいように思いますが、 BDRというネーミングはベルトドライブレーシングではなく、 ベルトドライブロード という意味らしいので、公道走る用では細めにしているのかなと思います。
燃焼室は典型的なペントルーフ型ですね。
当時の工作機械で削っただけという感じです。燃費とか熱損失とかは無視しているようですが、とにかくパワーを出そうという意気込みが感じられます。

コスワースBDR コスワースBDR
依頼された今回の内容はヘッド周りの整備です。
念のためシリンダーも点検しておきましょう。
シリンダーの冷却水通路になぜか砂が・・・。砂型鋳造の砂が残っていたようです。
冷却水通路以外をマスキングして大胆に水洗いします。エンジンハンガーあると便利ですね。
ゴミが入らないように慎重にかつ激しく水洗いします。

コスワースBDR コスワースBDR
オイルパンは鉄板を継ぎはぎした手作り感あふれる物です。
ドライサンプ仕様になっいています。

BDR
オイルパン外したところ。まるでディーゼルエンジンのような強固な作りですねー。
ハイパワーになっても壊れる感じしません。

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とりあえず燃焼室のカーボン真っ黒をキレイにします。
1番シリンダーのインレット側のバルブ2本曲がっています。
タイミングベルトの歯飛びによるバルブタイミングのずれで曲がったものと思われます。
バルブは2本だけ交換で大丈夫かな?

BDR BDR
バルブシートも損傷ないので新品のバルブを用意して擦り合わせをします。
ちなみにこの方法は昔の方法です。 バルブコンパウンドと呼ばれるベタベタの研磨砂。
これをバルブの傘部分に付けて、タコ棒という吸盤の付いた木の棒にバルブ付けてキリモミのようにスリスリします。
回したり、コンコンと叩いたりメカニックによっておのおの独自の方法があります。 現在はこんな方法ではなく自動の機械で行なうのですが、微妙な当たりを見たいので、昔の方法でやります。

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このレトロな缶は光明丹というオレンジの粉が入っています。印鑑を押す朱肉の原材料みたいな物です。
粉を油で練って使います。
光明丹をバルブに薄く付けバルブシートの当たり具合を見ます。均一にむら無く付くようになるまで擦り合わせします。

BDR
擦り合わせが完了したらバルブを組んでバルブの密着度を点検します。
BDR BDR
点検方法はいくつかありますが、ランポートではガソリンで点検します。
BDR
ガソリンを燃焼室に入れてポート側からエアーを吹くと、密着の悪い個所から泡が出ます。
ガソリンをケチって灯油を入れてはいけません。浸透性の高いガソリンがベストです。
ちなみに、エンジン洗ったりするのもガソリンをガンガンふんだんに使います。
もったいないように思われますが、ガソリンは洗剤あるいはパーツクリーナー、 コンビニの水より安くて性能いいからです。
今、擦り合わせたインレットはOKですね。 念のため他のバルブも点検。
エンジンがバルブ曲がってロックするまで動いていたはずですから他のバルブは問題ないはずです。
そのはずがー。

エキゾースト全部に泡ブクブクです。
BDR
エキゾーストバルブ外してみるとカーボンがびっしり。しかもバルブ当たり面が荒れています。
インレット2本だけ交換のつもりでしたが予想外の展開に。
とりあえずオーナーに来てもらう事にします。

お手軽なのは全部のバルブを新品にする事です。
バルブが一本1万円ぐらいしますから16本換えるとけっこうな出費になります。
オーナーと相談の上、元のバルブを修正して使う事に。
より高度な内容の整備になりました。

昔の整備士が特殊な技能を持った人とされていた頃、こんな整備をしていたんだろうなと思います。
何でも新品のパーツに交換して整備するのは、良いのか悪いのかとういう議論があります。
私は新品のパーツに交換して整備するのは全くもって正しいと思っています。
しかし、旧い車などで入手困難なパーツの場合などは、修理して永く後世に残すという事も大事かなとも思います。

メカに詳しいオーナーさんで器用な人なので、カーボンが付いたバルブをオーナーさん自らが磨く事にしてもらいます。
旋盤でカーボン取りするのが早いのですが、オーナーさんのガレージにボール盤があるらしいので、方法と注意事項伝えてバルブを持ち帰ってもらいます。
何事も趣味の世界ですから、出来る事はできるだけ自分でする方が楽しいかも。
コスワースBDR

翌日、もう出来たの?という感じで到着。夜中ガレージでがんばったのでしょう。すごいっ。
バルブの当たりを修正していきます。旋盤でつかんで高速回転。
バルブの荒れている部分を全部削るとバルブ傘が薄くなって強度が保てないので、慎重に修正していきます。 たっぷり時間が掛かって夜中になりました。。
コスワース
今回の場合、擦り合わせ作業は手作業では無理なので機械で行います。
バルブの端を工具でつかんで、モーターで回しながら擦り合わせる今風の方法です。
工具とモーターは簡単に外れるようにしてあるので、時々手でチェックしながら擦り合わせます。

前回でバルブ修正、摺り合わせが終了し、密封の点検をします。例のガソリンを燃焼室に入れてエアーで吹く方法です。
駄目であればもう一度修正しての繰返しです。少しづつしか作業できません。
えらく時間掛かります。
当たりが出た所で、ロアーヘッドをシリンダーに乗せて、ヘッドボルトをトルクレンチで数回に分けて締め付けます。

BDR
次にバルブリフターとシムの測定。順番に測定した数字をメモしていきます。
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コスワースBDR
シムはバルブの上に乗せるタイプで、その上にバルブリフターが来るインナーシム方式です。 バルブリフターの上にシムが乗るアウターシムという方式もあります。

二つの方式の特徴はアウターシム方式はシムの交換が楽で整備性が良い。
インナーシム方式はシムの交換が、カムを降ろさなければいけないので整備性は最悪です。
しかしインナーシム方式は、シムを軽く小さく出来るので高回転を回すのに優位になります。
BDR
コスワースBDRは整備性よりパワー重視のエンジンですから、当然のようにインナーシム方式を採用しています。
しかしカムを外してシムの交換が出来ないような、 意地悪な設計のため、一々ヘッドのアッパーをごっそり外す必要があります。

今のツインカムエンジンと比べるとヘッドも大きくなってしまうし、 ヘッドの熱拡張でバルブクリアランスも熱により変化します。
ツインカムの過渡期の設計ですね。そんな所もBDRらしさ、個性かもしれません。
その後の改良でカムを半円形のカムホルダーで止める方法になったり、 ヘッドが一体構造になってコンパクトになったりという進化をしていきます。

何だか神話化されたこのエンジンですが、実際にさわってみると、申し訳ないけどダメダメな点が見えてきてしまいます。
当時の限られた初歩的な工作機械で作るという条件で、最大限パワーを出す事のみ考えられたエンジンが、 コスワースBDRエンジンだとういう事でしょうね。
こんな物作ってしまおうという意気込みは、尊敬と敬服に値する事は確かです。
設計者の思想が感じられるエンジンは愛着がわいてきますね。

コスワースBDR
バルブクリアランスを測定します。
当然エキゾーストはバルブを削った分だけクリアランスは狭くなっているはずです。
基準値は0.25ミリ。
測定したエキゾーストはクリアランスが全くありません。
何故かいじってないインレットもクリアランスがほとんどありません。
バルブクリアランスが少ない場合、暖気時にバルブが伸びて圧縮漏れを起こします。
さぞかし調子が悪かっただろうと思います。

コスワースBDRのエンジンはシムの厚さが一種類しかありません。
すべて研磨して使いなさいという事ですね。
今回はシムを削る量も多く、相当根気と時間がかかります。
たぶん何時間かは掛かります。
すべてランポートで作業を行うと高くなりますので、又オーナーに作業をまかせる事にします。
寸法を指定して自宅ガレージにて研磨してきてもらいます。

シムを研磨する方法は研削盤という機械でする方法と、オイルストーンで手削りする方法があります。
今回は時間かかりますが手削りにて作業してもらいます。
オイルストーンは平面度に問題があるので、ランポートではダイアモンドの砥石を使います。
オーナーにシムと道具類を渡します。けっこう時間が掛かるはずですが、これも楽しみの一つですよね。

翌日、早々と仕上げてオーナーが現れました。早すぎです。
聞くところによるとシムを早く正確に削る方法と道具を発明したそうです。
今回はその方法はオーナーの特許ですので紹介しませんが、おそるべき発想力です。

コスワースBDR コスワースBDR
ヘッドが載り、バルブクリアランスの調整が完了。次はバルブタイミングの調整です。
通常の世の中にあるエンジンは、クランクとカムスプロケットに、合いマークという印が付いています。
クランクのマークを合わせると一番シリンダーのピストンが一番上に来ます。
その位置でカムシャフトのマークを合わせてベルトを組むとタイミングが合うというのが普通のエンジンです。
しかし、恐るべしコスワースBDRエンジンは合いマークが存在しません。
カムシャフトに至ってはカムシャフトとカムスプロケがテーパー勘合されているだけで、 自由に動くようになっています。
コスワースBDR

普通はスプライン溝又はキー溝でカムシャフトとスプロケが一箇所のみで固定されています。
コスワースBDRはそんな生易しい構造ではありません。
カムシャフトとスプロケを技術のみで調整せよという事です。
設計者からの挑戦状といった感じでしょうか。
当然のようにメカニックによってパワーに差が出るはずです。エンジンバカとしては意欲がわきますねー。

コスワースBDR  コスワースBDR
クランクの位置を測るには丸い分度器をクランクプーリーの端に付けて計測するのが通常です。
今回はクラッチのリングギア側に印を付けて分度器代わりにします。
リングギア側は円の直径も大きく、ギアの数を数えて割合正確に調整できるからです。
分度器でする方法も悪くはないのですが、今回のようにカムスプロケをベストな位置に合わせる必要があるので、作業しやすい方法で行う事にします。
コスワースBDR

バルブリフターの動きをダイアルゲージで見て、カムの位置を決定していきます。
同時に自由に動いてしまうカムスプロケの固定もしなくてはいけないので、非常に難しい作業になります。
バルブクリアランスの調整の時もそうなのですが、バルブをピストンの位置を考えながらでないと、せっかく組んだ バルブが曲がってしまうので注意が必要です。
こういった作業もノウハウとか、ちょっとしたコツみたいなのが必要です。

このエンジンにはBD3というプロフィールのカムが付いています。
バルブリフトが8.83ミリ バルブ作用角が290度
インレット開き  ピストンが最上部前35度    閉じ 最下部後 75度
エキゾースト開き ピストンが最下部前75度    閉じ 最上部後 35度
バルブオーバーラップ 70度
めちゃくちゃ過激というタイプのカムではありませんが、 充分にスポーティなパワーが予想されます。
インレットとエキゾーストのカムが全く同じというのは、 不自然な感じですが、チューニングエンジンではよくありがちです。
現在のレーシングエンジンでは、インレットとエキゾーストのカムは違う物が付いていて、 絶妙なセッティングになっています。

コスワースBDR
エンジンをケーターハム7に積み圧縮を点検します。 一番シリンダー 12.7キロ 素晴らしい。 というかかなり圧縮高いですね。
2番シリンダー 12.7キロ 他のシリンダーも同じです。抜群じゃないですか。
バルブの密着がうまく出来ています。バルブ周りの加工や作業が正しかったという事です。
今になってやっと安心できました。
まだエンジンを掛けていないのに安心というのも何ですが、メカニックというのはそんな物です。

キャブに充分燃料を行き渡らせてからエンジンを始動。一発で掛かりすぐに安定しています。
ここで決して回転を上げてはいけません。馴染むまで回転を上げず各部をチェック。徐々に回転を上げていきます。
異音も無く実に安定して回っています。
めでたしめでたし。